車の運転とDriver Model Bio-Motion Control Equation 運動方程式 車の運転のモデル化 Driving Examples リバースステア 強US車両の挙動 弱US車両の挙動 バイモ研 運転行為/Weber則関連 車の運転の物理 Bio-Motion Equation の環境対応、具体的なパラメータ例 Human-Motion Control Model Skilled 逆モデルによるドライバーモデル



AI ドライビング



運転行為と運転モデル


 操縦性検討の為のシミュレーションを行うに当たり、人間に変わって運転するドライバーモデル、すなわち数式で構成される運転モデルの成り立ちについて簡単に述べる。

 自動車、航空機、船舶などの運転では、運転対象の操縦特性である物理的な入出力特性を習得し、運転対象を思うように動かす。


 運転に限らずこの人の行為は、練習によって脳内に獲得する内部モデル*1はノウハウのような形で、結果から遡って行程を実行する逆モデルの形を取る。
 状況が練習通りなら見込んだ通りの意図した結果を正確に達成する。

 練習で獲得する脳内モデルは次の二つの運動制御逆モデルからなる。

1 運転対象の入出力特性を表す運動制御逆モデル
2 運動を実現する人の運動逆モデル(左図 α )




 我々の動作の特徴は、練習したことしか出来ない、反対の手では歯も磨けない、しかしやればやるほど上達し、やりきれば匠の域に。
 動作は、結果である意図した先読みの運動状態(速度・変位)が先に決まって、これを実現する行程は練習で全て分かっているので、結果から行程を遡って実現する逆モデルの形を取る。  例えばカーブにさしかかると前方のカーブでの車の運動が先に決まって、それを実現するためのハンドル操作を求める逆モデルを立ち上げる形になる。  


 動作時には練習で鍛えられた逆モデルが脳内で立ち上がり、身についた手順で必要な筋肉に指令を出す。
 身についた動作は、脳科学で”手続き記憶“と言われ、徘徊可能な認知症でも失われないとされる特別な記憶。
 身についた動作は無意識で一瞬に行われるので、どうやっているのか自分では分からない、どうやって歩いているのかさえ分からない。
  筋肉系の準備から始める逆モデルでの動作を迷路で例えれば、慣れ親しんだ迷路の通過は、動作を意識する前に脳内で無意識の内にあっと言う間に処理されて、動作を意識した瞬間に筋肉系の準備完了でいきなり迷路の出口に立っている状態。

 

 必要なのは名人の運転モデル、練習して最終的にたどり着く匠の域とは、匠の運転を具体的に表現している方が見えます。
 元F1レーサー中嶋悟著「運転の極意」三推社/講談社 によれば、楽器の演奏に例えて、カーブ云々の技術より大切なことは、人車一体の人の感性に沿った運転をすること。  この名人の感性に訴える運転の脳内プログラム(人の運動逆モデルと車両運動逆モデル)を推定して作成する。 走る度に運転の変わる新米ドライバーモデルは今回役に立たないなので考えていない。


○車両運動逆モデル
 教科書通りの運動方程式、操縦性をシミュレーションする場合、旋回時の前後輪での左右荷重移動を考慮したKf、Krが必要。

   δ = (m )/(2 Kf ) α  + ( 1 + Kr/Kf  ) β    

    コーナリングパワKf、Krは
    Kf=Kf0+εf ((Rf φ+mf hf α)/Tr )^2  Kr=Kr0+εf ((Rr φ+mr hr α)/Tr )^2
     (δ:操舵角 、m,mf,mr:質量 Kf、Kr:前後タイヤのコーナリングパワ εf :荷重依存係数 
      α:横加速度 φ:ロール角
      hf,hr:前後ロールセンタ高 Rf、Rr:前後ロール剛性 β:車体横滑り角(実車から得る))

○人の運動逆モデル
 教科書に無い、本文で導かれる名人の運動方程式。
加速度をコントロールして見込んだ速度a/Cを実現する逆モデルとして、最も簡単な2次の微分方程式を下に示します。
 これは元東大生研名誉教授 故平尾収先生の考えに基づいて造った運動方程式です。  先生は常々“事故原因は見込み違い”と言われてました。この式は先を見込んで動く、 安全運転を実現する見込運動方程式になっている。 ITARDA(交通事故総合分析センター)在籍中に、先生が亡くなられる1年前まで世田谷のご自宅にお邪魔してご指導を頂きました。
 さらにこの見込み運動方程式は、中嶋悟氏の言われる、人車一体の感性に沿った運転を実現する方程式でもあるのです。 そしてこの運動は人の運動ですので前後左右上下のどの方向にも適用出来ます。例えば横方向のレーンチェンジ、旋回のコーナリング、上下の乗り心地。

                     α  =  y"  =  a - C y'    

                車両運動式も含めて見やすい数式表現ーーー> 普通の数式






注1: 内部モデル
(今水 寛ATR 脳情報通信総合研究所https://bsd.neuroinf.jp/wiki/内部モデル)より

 外部世界の仕組みを脳の内部で模倣シミュレーションする神経機構である。ヒトや動物は、複雑な筋骨格系で構成される身体を、速く正確に制御できる。これは、脳の内部に、運動司令と身体の動きの関係を定量的に対応づけるモデル(信号変換器)が存在し、運動を実行する前に結果を予測したり、望ましい運動結果を実現するために必要な運動司令を予測することを可能にしているからと考えられている。このようなモデルは、身体の延長として機能する物体や道具の入出力特性も反映する。また、言語思考などさまざまな認知機能に関与する可能性も指摘されている。


             AI ドライビングの物理

我々の行為は逆モデルで
感覚も準備された脳内仮想環境で無意識に行われる


 いつの間にか乗れるようになった自転車、四苦八苦するも今ではすいすい乗れようになった車、でもどうやって運転しているのか自分では分からない。
 我々の行動には無意識の部分が有り、この部分に行動の本質が隠れている。箸を使う場合、箸先の動きは意識するが、練習して身につけた指-手首--肩の動きは無意識のうちに脳がやってくれているので、実際どうやって箸を動かしているのか分からない。

 練習していない反対の手では、字も書けないし歯も磨けない、箸も使えない。 何事も練習、生き物は一生を練習で過ごす。  脳内にプログラムが作られていなければ、簡単な動作もままならない。
 生まれて直ぐ訓練に入る動物たち、生まれた環境にすぐ慣れて生き抜けるよう、 デタラメから始める動物の赤ちゃんの何が起こっても動じない夢中になって遊ぶ姿/動作は見ていて飽きないし可愛らしい。

例えばマウスをクリックする場合

1.脳から指令が出て、

2.脳から指の先まで1m弱の長さの神経細胞を伝わって

3.指先の筋肉まで指令が届く

4.クリック

5.指先の感覚が神経細胞を伝わって

6.脳がクリックを感じる


 このようにマウスをクリックするには、脳から指令が出て体が反応するのに、神経を通して指令が伝わるコンマ何秒かの時間がかかります。実際のクリックは、クリックしようと思った瞬間に実現され、一呼吸遅れるはずのクリックの感覚/手応えも同じく瞬間に感じます。触ってから遅れて脳に上がる絶対間に合わないはずのクリックの手応え/感覚、これも含めて思うより前に準備が出来ている不思議な形になっています。

  自分の意思で始める時は、思った途端に寸秒の遅れなく即身体が動く。しかし、”用意ドン“とか”始め“と他人から言われてスタートする時は必ずコンマ何秒か遅れて身体が動くことになる。

 字を書く場合は書こうと思った瞬間にペンが動いて、思った通りに線が引ける。本当は脳から指令が出て、神経を経由して、指先の筋肉が応答する訳ですから、コンマ何秒か遅れて線が引けてもおかしくないのに、思った途端に手応え感とともに瞬時に線が引ける。

逆モデル
手応えも準備した仮想環境モデル、先行動作で遅れ無し
練習して身につけたことを機械的に行う


これは私たちの行動が、経験に基づいて身についている感覚/手応えも含めた一連の行程を機械的に、結果を時間的に遡って実現しているからです。全てが事前に準備され、無意識のうちに実行されている。

 例えば字を書く場合には、ペンを動かす前に、どんな字を書くのか、字の大きさは
、また指-手首--肩の力を入れ方等の準備に既に脳は働いているわけです。
 ペンを動かす前に
、結果として書かれるべき字を実現するための行為を、結果から時間的に遡った形で、脳内では着々と進めている訳で、すなわち結果が先にあって、脳内で逆モデルが先行して感覚も準備して一連の工程を行っているわけです。

練習によって感覚も含めて全工程が脳内にセットされているから、セットされた仮想環境の工程をひとつひとつ実施しているだけ。  覚えた迷路を逆から遡って入口から順に進むようなもの、途中は脳内で無意識の内に行われるので、最初から迷路の出口に立っているようなもの。

  その代わり動作環境も含めて練習して身に付いている事しか出来ない。少しでも脳内にセットされていた環境と実環境が違っていたら出口に行き着けない。  

  因果関係に沿って、こうすれば、ああなると言うのが順モデル、ああなるために、こうすると言う、結果が先にあって結果から遡ってその為の工程を実行するのが逆モデル、逆モデルは身に付いたノウハウのようなもので、このモデルは脳科学で内部モデル*1と言われる。

 実行されるときは習い覚えた環境を想定して実行されるので、呼び出された内部モデルに準備された仮想の環境が現実環境とずれている場合もあり、たとえば段差の無いモデルが呼び出され、現実は段差があれば躓いてしまうと言うことにもなる。
 のろまな我々生き物は全てこの練習によって身に付けた遅れの無い感覚も準備された仮想環境逆モデルで先を読んで行動するので、現実環境が読み通りであれば何事にもジャストタイミングの見事な動作が可能。

 思うより先にプログラムを立ち上げて、正確で素早い行動を実現するこのシステムの欠点かも知れないことがあります
 最近話題の高齢者のブレーキとアクセルの踏み間違い、若い人にも踏み間違いは多いようですが、若い人では事故になりにくく高齢者では事故になりやすようです。
 歩いたり楽器を演奏したりする練習して身体で覚える「手続き記憶」と言われる動作プログラムは、認知症でも機能すると言われています。

 最近高齢者に仲間入りして自分でも気にしているのですが、何かをやろうとして手を伸ばした先を見て、あれ!、ということが若いときに比べて多くなりました。
 実環境にそぐわない違ったプログラムを起動させてしまった場合、無意識での行為なので、実行後現実環境に戻り、感覚がしっかりしていれば、そこでシマッタ、やり直しとなります。 認知症になると、脳内仮想環境で動いている状態を監視している現実の感覚がおかしいので、動作終了時でも現実環境に戻れず仮想環境のまま、テレビ等で見られるように、店内に飛び込んでぶつかって止まっても未だアクセルを踏み続けて車が前後に揺れているいるようなことになるのでは。

 

 

このシステムのお陰で、イチローの見事なまでのバッティングとライトを守っての見事としか言いようの無い背面ジャンプ捕球を可能としている。

しかし誰にも負けないたゆまない練習で獲得した逆モデルでも、プログラムは見込んだ運動環境条件に合わせて実行されるので、実行時の運動環境条件の読みに問題があれば、例えばピッチャーの投げる球の運動に読み間違いがあれば、不適切なプログラムが呼び出されイチローでも打てないと言う事になってしまう。

 日常経験することですが、物理的な状況に読み間違いがあっても、そのままプログラムは実行されるので、例えばスカを喰ったり、躓いたり、踏み外したり、みっともない形で終わります。 先行して脳内でプログラムが立ち上がってしまっているので、実行時に間違いに気付いても、手遅れで、つまずいて転ぶしか無い。

 感覚がすべてを支配、仮想環境逆モデルは感覚で作られ、動作は感覚の監視下で行われ、感覚に評価される。 そして上手くいくかどうかは、モデル獲得に費やした練習量と、モデル実行時の物理的な環境状況を如何に正確に感覚が捉えているかにかかっている。

 


運転とは、一言でいえば、環境に合わせた安全速度を快適に実現すること


脳内内部モデルで無意識のうちの行われる運転操作を具体的な形で表現するにはどうしたら良いでしょうか。 内部モデルの目指すところは明快で、“安全にそして快適に”では無いでしょうか。
 交通環境を安全に走るとは具体的にはどんな走りでしょうか。 快適なとはどんな動きでしょうか。

 元F1レーサー中嶋悟氏の運転に対する考え方を紹介させていただきます。

 中嶋悟著「運転の極意」から抜粋:
「僕にとってのうまい運転というのをひと言でいってしまうと、ドライバーとクルマが一体感をもって動いている運転ということになる。 ・・・コーナリングうんぬんということは、実は僕にとってのうまい運転の定義からすると、優先順位はいちばんにはならない。そういうひとつひとつの操作のうまいへたよりも、クルマと一体になって動いていることのほうが、僕はずっと大事なことだと思う。 ・・・ ひとつの楽器がテクニック的な意味でメチャメチャうまくても、なんとなくそれだけじゃうまい演奏とはいえないんじゃないかな?
 ・・・・・ 僕にとっての理想とは、クルマがもっと人間の感覚に忠実な機械として発展することを願うものだ。」
 
 人馬一体の走りを「鞍上に人なく鞍下に馬なし」と言うように、中嶋悟氏の理想は車と一体になることだと言われ、元東大生研教授の故平尾収先生は車のことを人動車と言われ、また自動車工学の権威の元東工大教授の故近藤政市先生は車のことを半人間機械、半機械人間と言われていました。
 中嶋悟氏は一体感からさらに踏み込んだ表現で「楽器の演奏に喩えて、技術も大事だがそれ以上に感性に響くようなことがもっと大事だ」と言われています。
 自動車の運動に関わる権威の方は、車は物理的な機械ですが、人が操るとその動きは人間そのものと言うことを言われているのだと思われます。

 ベテランによる人車一体となった滑らかな運動は、物理法則に従って走る車と、それを心得て巧みに運動制御するドライバーによって成り立ちます。クルマの物理モデルを脳内に形成して車と一体になって走る名人の運転が物理式で表現出来ると考えるのが自然な気がします。しかしその動きはあくまでも機械の動きではなく感性豊かな人の動きでなければならない。


運転行為の中で安全に関わる部分、安全に走るとは

 事故の発生要因
  ・環境に潜在危険
  ・潜在危険に気がつかない運転者がそこを走って
  ・量的因子

 交通事故は誰にでもどこでも平等に起こるのではなく、物理的な衝突の可能性を潜在させている危険な環境に接して、これを見抜けなかった運転者がいると確率的に発生する。
 普通は潜在する危険が有っても、その危険に気が付かないし事故も起こらない、 毎日同じ道を同じように走って、たまたま子供が飛び出して偶然、事故になるので、本人も自分の通行方法に原因があるとは思わない。

  安全な運転者はどうしているのか?
 「車は急に止まれない」って知ってますか、昔は子供の飛び出しが多くよく言われたものです。
 子供が飛び出さなくても、飛び出しの危険のあるところでは、事前に速度を下げて走っているので、万一飛び出しが有っても、速度を落としているので普通の運転で対応可能で飛び出しにならない。
 さらに言えば余裕を持った滑らかな速度コントロールで何でも無かったように走れることが望まれる。
 大切なことは、先を読んで事前に落とす速度を決める、そしてそこに達したらその速度が自然に実現されていること。  
 人動車の行動をモデル化するとき、所定の位置で所定の速度が実現されいること、このことが重要になります。

 平尾収先生は、運転の本質を「先を読んだ見込み動作」として、事故原因は「見込み違い」と言われていました。
 例えば追突事故は脇見が原因と言いますが、脇見は誰でも普通にすることで、これを原因とするとそこいら中事故だらけになってしまいます。

 脇見もせずに真剣に前ばかり見ている運転には、それこそ心配で乗っていられません。
 先を読んだ見込み動作とは、環境に応じた安全速度の先読みで、環境に適合した速度を道路に沿って、次々と実現すること。 
 積分時間を要する変位(位置)および速度の実現には時間を要する。 これをタイミング良く行うには、逆モデルによる先読みの見込み動作で対応する。 変化も含めて環境を先読みし、予め練習で獲得している逆モデルによる動作でこれに対処する。
 

環境を前にして、(運動に)先立って生じる運動意図を実現する人の運動制御式は、環境での運動が先に決まる環境駆動の逆運動モデルに成っている必要があり、中嶋悟氏はさらに、この運動がヒトの感性に響くことを求めている。
 

一般的には目標速度を実現する最も簡単な微分方程式は x” = a – Cx’ です。 
 この微分方程式による加速度運動が中に乗っている人の感性に沿うことが保証されると、人の運動逆モデルになれる。

 

この式の見方を変えると、この式は環境が車に作用して、環境に侵入する車に対して侵入時の走行状態(速度・位置)応じて mx" の環境力を作用させると見なすことが出来る。
 安全速度V (実現位置X )の環境に速度x' (車両の位置x )で進入してきた車両に働く加速度x"を決める関数になる。C---> C(x,X,V)





 実際、後で記載するが、19世紀の生理学者 Ernst Heinrich Weber(1795-1878)が感覚に関わる法則を物理量の式で提案している
その 感覚と物理量との対応関係を示す(ウェーバーの法則)からヒトの感覚に沿ったヒトの運動逆モデルとして、この微分方程式が導かれる。







 


       アンダーステアの強弱・操縦性を決める仕組み
     車両運動逆モデルが行う運転・ハンドル捌きについて



 運転する車両の入出力特性式は下の図に示すとおり、教科書通りの運動方程式を当てます。
 車が 行うべき運動がαで、このαを入力して出力である操舵輪の角度δを出力する。 横滑り角βはシミュレーション中の車両の走行中のデータを使用します。
 アンダーステア・オーバーステアの操縦性をシミュレーションする場合、アンダーステアの強弱を決定する旋回時の前後輪での左右荷重移動を考慮したKf、Krが非常に重要です。下記する式で算出した値を使用します。

   δ = (m )/(2 K_f ) α  + ( 1 + K_r/K_f  ) β    

    コーナリングパワKf、Krは
    Kf=Kf0+εf ((Rf φ+mf hf α)/Tr )^2  Kr=Kr0+εf ((Rr φ+mr hr α)/Tr )^2
     (δ:操舵角 、m,mf,mr:質量 Kf、Kr:前後タイヤのコーナリングパワ εf :荷重依存係数 
      α:横加速度 φ:ロール角
      hf,hr:前後ロールセンタ高 Rf、Rr:前後ロール剛性 β:車体横滑り角(実車から得る))

 この車両運動逆モデルで行うハンドル捌きが簡単ではなく、かなり込み入っているので、 具体的な前輪後輪が発揮する横力の工程がどうなっているのか考えます。
  通常の運転におけるコーナリング時の、減速しながらコーナーに入る時の遠心力の変化の過程、 および直線運動に戻るときの加速 から直線走行に移る遠心力の変化の過程が、 ここの走り方如何によって感性に沿った上手い運転になる可能性があるが、 微妙なコントロールはステアリングと言うよりアクセルとブレーキのコントロールにゆだねられる。 この場合主役はステアリング操作によるハンドリングにならない。

 ハンドリングが主役のきつめの横滑りが分かるようなコーナリング時の瞬間的なハンドリングでの滑らかな上手い運転はかなり難しい。
 ステアリング操作によって、意図した車の運動を生じる力のコントロールがダイレクトではなく、 重い車体の回転を介して行う間接的なもので、このタイミング遅れの車体に働く力を上手くコントロールするのは難しい。

 ハンドル捌きによる力のコントロールが生じるのは、一呼吸おいた動きの鈍い車体の回転後

  ここではステアリング操作によってタイヤに発生させる力のコントロールの工程について述べる。

 左の図に左旋回中の車両の姿勢を示すが、リヤタイヤが横滑りしないと車体は支えられないので、激しい運転でも温和しい運転でもどんな運転でも旋回中はリヤタイヤと一体の車体は必ず図のように横滑り状態になります。

 車体と一体構造のリヤタイヤが車体を支える役割を担い、フロントタイヤの役割は支えるのではなく、フロントタイヤの力で車体の向きを自在にコントロールすること。

 リヤタイヤはフロントタイヤに支配されて、 フロントタイヤの思惑通り一呼吸遅れて車体と一緒に向きを変え、フロントタイヤにコントロールされた力を発揮し、意図した旋回が成立する。
 
 左の下の図で示す車体に働くモーメントで分かるように、アンダーステアの強弱レベルを決める操縦性は、車体を支えるリヤタイヤの踏ん張り力と、車体を動かすフロントタイヤの発揮するコントロール力のバランスで決まります。
 進行方向に対して角度を持ったリヤタイヤが横滑りして発生する操舵方向へ働く求心力は、同時に車体の向きを元に戻す方向の回転モーメントを発生させるので、操舵輪はこの力とのバランスにより、車体に旋回に必要な求心力を得ると同時に車体に働く回転モーメントをコントロールして旋回に沿ったヨーレートを実現する。


 前後のタイヤのコーナリングフォースの強さの違いによって舵の効き具合が変わりますが、 前後での強さの違いは前後サスペンションの剛性配分の違いによって、前後での旋回外輪への荷重移動量が異なるために生じます。

 荷重移動によるコーナリングフォースの減少については左の図を参照ください。
 ロール剛性が強いと旋回時の内輪から外輪への荷重移動量が大きくなります。荷重の移動量が大きい程その分コーナリングフォースが減少します。フロントとリヤのロール剛性配分によってアンダーステアのレベルが変わります。 フロントがリヤより剛性が強いほど、フロントでの左右輪の荷重移動が大きいことによるコーナリングフォースの減少がリヤより大きくなることによりアンダーステアが強くなります。
 フロント側のロール剛性がリヤに対して弱いと、ロール時リヤより左右の荷重移動が少なくコーナリングフォースが落ちないので、弱アンダーで車体のコントロールが楽になり、ラリーのような走りが容易にできます。

 リヤのロール剛性が弱いとフロントが弱い場合の逆で、リヤでの荷重移動が少なく、リヤタイヤのコーナリングフォースが維持されて強アンダーで、 無理のかかっていないリヤタイヤに余裕が生まれているので、その分駆動力を駆けることが可能になり、アクセルコントロールによりスピードサーキットでの高速旋回が可能となります。ただし、アクセルの微妙なコントロールとステアリング操作の合わせ技によって、アンダー分を使い切ってオーバーステア寸前までのニュートラルステア状態に持って行って走るのは簡単ではない。
 
 

フロントタイヤを操舵して車体を進行方向に対して必要な角度を持たせ、横滑りするリヤタイヤの軸方向の摩擦により、車体に横向きの力を発生させる。 カーブ旋回に見合った求心力およびヨーレートを発生する所定の車体(リヤタイヤ)の横滑り角が得られれば、 そのリヤタイヤの発生する力にバランスさせた力をフロントタイヤが発生するようにフロントタイヤの向きを合わせる。

下の動画と写真はレーンチェンジの時のハンドル捌きを示す。前輪の動きとリヤタイヤに働く力と車体の動きを見てください。
 

フロントタイヤを含む操舵系がこの車体(リヤタイヤ)の向きを自在に変えることになるが、時間遅れの大きい重い車体の回転運動を介在するので、操舵によるフロントタイヤに発生させる力加減はかなり難しい。 車体の回転についてはポールフレール著“ハイスピードドライビング”3章コーナーへの侵入と脱出に、一本支柱のリフトに持ち上げられた車両の回転として、非常に詳しく述べられている。

 フロントもリヤもそれぞれ大切な働きをするが、各々の発生する力のバランスで操縦特性が決まる。
 旋回ロール時に前後サスペンションのロール剛性配分に応じて、前輪および後輪に旋回内輪から外輪への荷重移動が生じ、剛性配分の大きい荷重移動量が多い側で求心力の減少が大きくなり、前後輪での移動量の違いで生じる力のバランスで操縦特性が決まる。

 前輪での荷重移動量が後輪より大きいときには、言い換えるとフロントサスペンションの剛性配分がリヤより大きい場合、前輪の求心力がより減少してアンダーステアが強くなり、逆だとアンダーステアが弱くなる。
 アンダーステアが強いと感じた場合は慎重に運転する必要があり、無理に切り込むと突然リバースステアが起こり、クルマは物理的に旋回可能でもヒトのステアリング操作の腕力が足りずプロでも最終的にスピンに至る。

 サーキットで行われるスピードレースではプロのドライバーがスピンしている光景がよく見られるが、スピードを競う場合はアンダーが強い方がリヤの横滑りが少なくコーナーでのスピードが落ちにくく、さらに余裕のある後輪に駆動がかけられ早く走るには有利なため、リバースが起こる危険をおかしても、高速サーキットでのスピードを競うレーシングカーは、アンダーを強めに設定していると思われる。

 

一般的にアンダーの強い市販車では、運転中にアンダーを感じたらカーブに高速で進入しないのが無難。

対照がラリー車の走り、絶対と言っていいほどスピンはしない。 先の読めないカーブに無理なスピードで突っ込んで行っても、横滑りしながらなんでも無いように走り去っていく。
 弱めのアンダーステアではリヤには無理がかかって、横滑りによりカーブを通過する速度は遅くなってしまうが、フロントは自在でコントロールを失うことはない。 無理なカーブ進入でも減速するだけで、コースを飛び出すほどの極端なオーバースピードでない限り素人でも運転に失敗することは無い。

  リバースステアについては4節の「Driving Examples リバースステア 強いUS車両の挙動」および5節の「弱US車両の挙動」に. /span>

 

 

運動逆モデル*1により 行うべき 運動αからそのための操作δを生じる

入力があってその結果出力が生じる、ハンドル操作があって車は曲がっていく。 ところが車の運転行為は一寸違う、最初に運動が頭の中に浮かぶ、例えば前のカーブを曲がろうとすると、最初にカーブでの自車の行うべき運動αが設定され、その為のハンドル操作δが頭の中に生じる。
 すなわち結果である運動αから入力δが生じるのである。 その為には自分の中に、練習によって運動αから操作量δを生じる 車両運動Inverse Model /逆モデル を獲得していなければ成らない。 逆モデルが正確ならこのδによって確実に思った運動αが実現できることになる。
 

車体と一体のリヤタイヤに働く力の加減には、ステアリングからフロントタイヤに至る操舵系の運動特性およびこれによる車両の応答/運動特性など全てが、十分な経験に基づいて身に付いて(身体に逆モデルがプログラムされて)いることが必要。



逆モデル・AI ドライバーによるシビアなレーンチェンジ

こちらにも動画 

車両はCarSim

前後輪に発生する横方向の力を、路面に平行な黄色の矢印で示し、上下方向の力を路面に垂直な矢印で示す
 最初にリヤタイヤに働く黄色の矢印を見てください。
 リヤタイヤに働く力が、レーンチェンジに合わせて左に、右にと変化しているのが分かると思います。 先行するフロントタイやの力で車体の向きを変え、それによって発生するリヤタイヤのコーナリングフォースでレーンチェンジしている様子がよく分かる。
 巧みなステアリング操作で前輪が発生する力をコントロールして車体の向きを変えて、車体とともに向きの変わるリヤタイヤにレーンチェンジする力を発生させているわけです。

さらに、自分も中に乗っていて慣性力を受けるので、不快にならないようどう力加減したらよいか、人の感覚特性に基づいた力加減の仕方を身につけている必要がある。

 

感覚

我々は、匠の物差し、美の原器を持たされて生まれてくる、音痴でもベートーベンが分かる。

感覚は生まれたときからプロ、素人でも一瞬でプロの技を見抜く、しかしやってみればぶざま。
 大自然の摂理が何億年にも渡って刻まれた虎の巻を授かっている、何もしなければ、虎の巻は埃を被ったまま。
 努力(行動)すればするだけ幾らでも開示される。

すべて生まれてからプログラムされる、赤ちゃんの行動を見ればすぐわかるように、習うより慣れろ、どんなことでもその環境で自分でやってみて習得しなければ何も出来ないように仕組まれている。

 そして、やってみれば、全知全能の神がコーチ役を引き受け、動きを見守りプログラムを修正、次の機会によりリファインした動きを実現する。 コーチの正体は、自然界の美しさ、プロの技を一瞬の内に見抜く、自分自身の感覚。 トライする度に洗練される運動は、感覚の中に秘められた究極の運動に限りなく近づく。

 

Weberの法則:人の運動逆モデル

運動は、敵から逃げたり餌をとったり命に関わる重要な行為なので、これに関わる視覚、聴覚、触覚、運動感覚、力覚などの感覚は正確に物理量と1対1に対応している必要がある。
 この感覚の世界を物理量の世界に変える手段は19世紀の生理学者
 Ernst Heinrich Weber(1795-1878)が物理量の式で提供してくれています。
  感覚と物理量との対応関係を示す(ウェーバーの法則) ΔS/S = C 一定 、この式は感じる最小の物理変化量が現在値に比例することを表しているが、放射性物質の崩壊、熱せられた物体の冷却など自然界の非常に基本的な現象と同じ式の形をとる。 感覚も単純な単なる物理法則に従った自然現象としての存在になるのでは。


(ウェーバー))の法則の物理刺激量Sとして
ΔS/S=C 一定
 運動中の身体が受ける力(mx")を考える。 Δt を力の変化を感じる短い時間とすれば、ΔS=dS/dt*Δt ここに S=mx"  となるが、このΔS、S をWeber比の式  に適用すると、身体が受ける力(mx")の感覚が作り出す3次の微分方程式が得られ、これを積分して2次の微分方程式 x" = a - C/Δt x' を得る。

 感覚が目指して求める究極の運動  x" = a - C x' が得られる。
 感覚の法則、Weberの法則から導かれたこの式は滑らかな運動を保証するだけでなく、さらに、予想された通り、前述の微分方程式で示した速度を見込む運動の逆モデル(運動制御則)と同じ微分方程式になっており、環境に合わせた見込み運動を行う。

この式を変形
   x" = a - C(X,V) x'
    ここに、(X,V)>が環境での運動状態。>
    この式はこの運動状態(X,V)を滑らかに実現する。

 

人の運動逆モデル+車両運動逆モデルーーー>ドライバーモデル <


 人の運動逆モデルから環境に対応する取るべき運動状態(X,V)が先に決まり、その運動αを行う運転操作δを車両運動逆モデルによって求め、その求めた操作δを車に行って、思った運動αが車の運動αとして実現され、最終的に環境での運動状態(X,V)が実現される。
 先読みによって定めた運動状態を、車の滑らかな動きで実現するには、「その運動状態を実現する運動(加速度)を算出する”人の運動逆モデル”」 および 「算出した運動(加速度)を車の動きで実現するステアリング操作量を求める”車両運動逆モデル”」の両方が必要。

 上の図で、f(X,V)=α が人の運動逆モデル。 V(α)=δ が車両運動逆モデル。
 (X,V) は環境での取るべき運動状態で α がそれを実現するヒトに快適な加速度パターン。 操作δ は車両で α を実現する操舵角。 f(X,V)=α はWeberの法則から求まった x" = a - C(X,V) x'
 の加速度運動。

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