始めに今回作成したドライバーモデルによるシミュレーションを見ていただきます
4WSのシミュレーションも追加したが、この二つのシミュレーションから2WS車の運転の本質が分かる
CarSim車両 (Mechanical Simulation社)
4WSのレーンチェンジも可能、運転は2WSより簡単、
2WSでは上の動画で分かるように左に素早くレーンチェンジするため後輪を素早く左に向けるには、
重いボディーごと後輪を左に向ける必要があるのに対して、4WSでは車輪だけ左に向ければ良い
運転行為と運転モデル
操縦性検討の為のシミュレーションを行うに当たり、人間に変わって運転するドライバーモデル、すなわち数式で構成される運転モデルの成り立ちについて簡単に述べる。
自動車、航空機、船舶などの運転では、運転対象の操縦特性である物理的な入出力特性を習得し、運転対象を思うように動かす。
運転に限らずこの人の行為は、練習によって脳内に獲得する内部モデルにより、ノウハウのような形で結果から遡って行程を実行する逆モデルの形で行われる。
状況が練習通りなら見込んだ通りの意図した結果を正確に達成する。
練習で獲得する脳内モデルは次の二つの運動逆モデルからなる。
1 運転対象の入出力特性を表す運動逆モデル
2 実現する運動αを表現する人の運動逆モデル(左図 α )
車両の運動制御逆モデルは既存の力学モデルを当て、人の運動逆モデルは前ページの、練習して最終的にたどり着く匠の名人の運転モデルを当てる。
○車両運動逆モデル
操縦性をシミュレーションする場合、旋回時の前後輪での左右荷重移動を考慮したKf、Krが必要。
δ = (m )/(2 Kf ) α + ( 1 + Kr/Kf ) β
コーナリングパワ Kf、Krは旋回外輪への荷重移動を考慮したものが必須
Kf=Kf0+εf ((Rf φ+mf hf α)/Tr )^2 Kr=Kr0+εf ((Rr φ+mr hr α)/Tr )^2
(δ:操舵角 、m,mf,mr:質量 Kf、Kr:前後タイヤのコーナリングパワ εf :荷重依存係数 α:横加速度 φ:ロール角
hf,hr:前後ロールセンタ高 Rf、Rr:前後ロール剛性 β:車体横滑り角(実車から得る))
車両運動式も含めて見やすい普通の数式表現
○人の運動逆モデル( Weberの法則から導かれた式)
人の感覚の法則から導かれた運転の匠、名人の運動方程式
Weberの法則から導かれる、加速度をコントロールして見込んだ速度a/Cを実現する逆モデルの形をした、最も簡単な2次の微分方程式の形を取る。
α = y" = a - C y'
人の感性から導かれたこの式は、中嶋悟氏の言われる、人車一体の感性に沿った運転を実現する方程式になります。
そしてこの運動は人の運動ですので前後左右上下のどの方向にも適用出来ます。
上手になればなるほど
制御対象に依存しない制御結果を出せるようになる
運転: 人の運動制御
免許取り立てでは、たとえノロノロ運転でさえも、ギクシャクした、お粗末なもの。 しかし、しばらく走ると、ギクシャクが取れて、何年も走り込めば、自分なりの滑らかさで走る技術が身に付いてくる。 走り込む内に、プログラムが洗練されて、毎回同じように思った通りに車を動かせるようになり、もう出鱈目に運転しようと思っても、身に付いたプログラムがそれをさせない。
初めはへぼでも、最終的には上達して、快適で滑らかな運動を車にさせることが出来る、これが人の運動制御です。 人の運動制御の特徴は、最初のページで述べたように、結果が先にあってこれを目指して試行錯誤で、俗な言葉で言えば出鱈目に行われ、結果を出すためにはどうやたら良いかと言う逆モデルが確率的に少しずつ完成される。 今回この完成された最終的な運動制御の形をモデル化しました。
人の運動制御を端的に言うと、筋肉が最終出力なので、力制御、俗な言葉で“力加減”。
スカを食うと言う。 単にものを持ち上げるだけでも、その物の重さ、重さに見合った力で掴んで潰れないか、変形しないかの、その物の剛性、さらに持ち上げるときに、滑らないか、ぬるぬるしているか、ざらざらか、つるつるしているか等の表面性状等、力加減に必要な全てが、持ち上げる前に十分な経験に基づいて分かっていて、そのための動作が身について(必要な力加減の全てが織り込まれたプログラムが身体内に出来上がって)いて、はじめて巧く持ち上げられる。
車の運動の力加減はどうなって居るのでしょうか
脳科学によれば、人は道具を身体の延長として自分の身体の一部のようにコントロールする。
脳内モデルの操舵と力の関係の逆モデルの運動方程式は下図のようになります。
この逆モデルの加速度αのところに人の運動逆モデルを入れると、人の代わりに車を運転出来るドライバーモデルになります。
横滑り自在の巧みのドライバーにするには、旋回時の内輪から外輪への左右の荷重移動がタイヤの発生する力のコントロールに大きく関わりますので、
ホームページの最初のページに記載した荷重を考慮したKf,Krの使用が必須です。
この逆モデルは、これから述べるように非常に複雑なハンドル捌きをこなす素晴らしい機能を隠し持っている。
下手な運転の車でも、この逆モデルを組み込んでおけば、走行中の運転者の意図(速度・変位)を含み持っている加速度を計測すれば、
このモデルだけで横滑り自在の難しいステアアシストをすることが可能。
後輪と前輪に働く求心力の働き具合について考えます。
大切なのは後輪が車体を支えていると言うことです。旋回中の車は横滑り状態になっていないと求心力が得られない。
下の図に示すように、アンダーステアが弱かろうと強かろうと旋回中の車体は必ず横滑り状態になっています。速度が速いほど横滑り状態の角度は大きくなる。
タイヤの回転面が進行方向に対して角度をもって横滑りしながら進むことによってタイヤ軸方向に力を発生するので、 旋回中はリヤタイヤと一体の車体が進行方向に対して横滑りしている状態になる。
フロントタイヤの役割ですが、操舵によりフロントタイヤに働く力をコントロールして、 車体の向きを変えることによってリヤタイヤに働く力をコントロールすることになる。
カーブ進入時には進行方向に対して先ず車体を横滑りさせなければリヤタイヤの求心力が得られない。
操舵によるフロントタイヤの力でこの車体の向きを自在に変えることになるが、
リヤタイヤが力を発揮するのは、重い車体が横に回転してからになるので時間遅れが大きく、
車体の動きを介してのリヤタイヤに働かせる力加減は、タイミング遅れでかなり難しい。
リヤタイヤは、 フロントタイヤの力によって一呼吸遅れて車体と一緒に向きを変えて、 車体をささえる力を発揮し意図した旋回が成立する。所定の車体の横滑り角が得られれば、
そのリヤタイヤの発生する力にバランスさせた力をフロントタイヤが発生するようにフロントタイヤの向きを合わせることで、 車両のカーブ進入が可能になる。
左の図に、旋回に関わるフロントとリヤのお互いにせめぎ合で働く相反する車体に働く回転モーメントを示す。
操縦性を決めるアンダーステアの強弱レベルは、車体を支えるリヤタイヤの踏ん張りモーメントと、 その踏ん張り力に逆らって車体を回転させるロントタイヤの発揮するモーメント、この二つのモーメントのバランスで決まります。
フロントの回転モーメントが強いほど舵が効くので自在の運転が可能で、 リヤの回転モーメントは舵を戻す方向に働く力になるので、これが強いと思い通り舵が切れないことになる。
しかしフロントの力で舵が決まって所定の車体の回転が得られた後は、リヤは車体を支えるので弱いと旋回能力が落ちてしまう。 フロントとリヤのバランスの落としどころでアンダーステアのレベルが決まる。
進行方向に対して角度を持ったリヤタイヤが横滑りして発生する求心力は、 同時に車体の向きを元に戻す方向の回転モーメントを発生させるので、操舵輪はこの力とのバランスにより、
車体に旋回に必要な求心力を得ると同時に車体に働く回転モーメントをコントロールして旋回に沿ったヨーレートを実現する。
フロントが強いとか弱いとか言いましたが、フロントとリヤの強さのバランスは前後サスペンションのロール剛性配分によって決まります。
前後のタイヤのコーナリングフォースの強さの違いによって舵の効き具合が変わりますが、 前後での強さの違いは前後サスペンションの剛性配分の違いによって、前後での旋回外輪への荷重移動量が異なるために生じます。
剛性が強いほど荷重移動量が大きくなります。
荷重移動によるコーナリングフォースの減少については左の図を参照ください。
ロール剛性が強いと、強く踏ん張るので旋回時の内輪から外輪への荷重移動量が大きくなります。図から分かりますように、荷重の移動量が大きい程その分コーナリングフォースが減少します。フロントとリヤのロール剛性配分によってアンダーステアのレベルが変わります。 フロントがリヤより剛性が強いほど、フロントでの左右輪の荷重移動が大きいことによるコーナリングフォースの減少がリヤより大きくなることによりアンダーステアが強くなります。
フロント側のロール剛性がリヤに対して弱いと、ロール時リヤより左右の荷重移動が少なくコーナリングフォースが落ちないので、弱アンダーで車体のコントロールが楽になり、ラリーのような走りが容易にできます。
リヤのロール剛性が弱いとフロントが弱い場合の逆で、リヤでの荷重移動が少なく、リヤタイヤのコーナリングフォースが維持されて強アンダーで、 無理のかかっていないリヤタイヤに余裕が生まれているので、その分駆動力を駆けることが可能になり、アクセルコントロールにより
スピードサーキットでの高速旋回が可能となります。ただし、アクセルの微妙なコントロールとステアリング操作の合わせ技によって、
アンダー分を使い切ってオーバーステア寸前までのニュートラルステア状態に持って行って走るのは簡単ではない。
車体の回転ををコントロールする具体的な走行例をこのモデルを使ったシミュレーションで示します
(下の絵の少し下にレーンチェンジアニメーション)。
前後輪が発生する力を路面に平行な黄色の矢印で示す。 最初にリヤタイヤに働く黄色の矢印を見てください。
リヤタイヤに働く力が、レーンチェンジに合わせて左に、右にと変化しているのが分かると思います。 先行するフロントタイやの力で車体の向きを変え、それによって発生するリヤタイヤのコーナリングフォースでレーンチェンジしている様子がよく分かる。
巧みなステアリング操作で前輪が発生する力をコントロールして車体の向きを変えて、 車体とともに向きの変わるリヤタイヤにレーンチェンジする力を発生させているわけです。
このタイヤの力加減を行う操作系を含めた車の運動力学特性を身につけて、 さらに、自分も中に乗っていて慣性力を受けるので、不快にならないようどう力加減したら良いのか、
人の感覚特性に基づいた力加減の仕方を身につけている必要がある。
人の運動逆モデル: 運動α?
環境での運動状態を実現する加速度パターン(運動α)は無限に存在するが、
中に乗っている人の体感に合ったパターンは、感覚生理から絞り込まれ、
そのパターンは前ページ(Bio-Motion Control Equation 運動方程式)で示されたものになる。
運動αについては、宇宙船の移動を考えると分かりやすい。 搭乗者は慣性力のみを感じる。
運転とはこの慣性力のコントロールで、環境での目標運動状態(X1、V1)をターゲットに
乗り物の加速度を、(この場合宇宙)人の 運動αでコントロールする
名人が操縦する乗り物の動きは人の動き
前方環境で実現する見込み運動状態-->人の運動逆モデル-->
車両の運動逆モデル-->車両:人の運動-->見込み運動状態実現
身体の中にある理想運動αを、
環境に合わせながら、車両の運動αとして実現
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2009年06月22日 21時01分 |
Professional Driver AI 「弘法」 : Vehicle Motion is Human Motion
Basic driver control dynamics to the task demand result from sensory /motor
characteristics and adaptation to the vehicle dynamics.
弘法筆を選ばず:
弘法はどんな筆を使っても同じようにうまい字を画ける。
「美しい字」と表現しておきましょう、
「美しい字」は弘法の身体の中に有って、
それが筆を通して外に現れる。
車の弘法 車 を選ばず:
環境に対応した運転を行うので、同じ環境なら、どの車でも同じ運動をする。
どんな車を運転しても同じ運動を実現できるが、
しかし、同じ運動でも、車ごとにハンドル捌きが違ってくる。
車は一寸複雑な道具ですが基本的には筆と同じ、
美しい動きの原器は我々の身体に中に有って、
それが車の滑らかな美しい動きとなって具現する。
コンピュータ内数式モデル AI「弘法」による完全自動運転:
運転モデルAI「弘法」はどんな車に乗っても、
その逆モデルを即座に習得して、
頭の中に描いた滑らかな動きを、
車の運動として再現する。
車の運動力学の名著「基礎自動車工学」の著者近藤政市先生(元東工大教授)は
人間と一体になってこれほど意のままに動く機械はないと、
「私は、自動車は半人格を持っていると考えており、
自動車のことを「半機械人間、半人間機械」と呼ぶことにしている」言っています。
元東大生産技術研究所教授、自在研初代所長の平尾収先生は
人間と自動車を一体と考え「人動車」と言っていました。
車の動きは人の動きなのです。
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乗り物の動きは
滑らかな人の動き
x" = a - C x''
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図は、レーシングカーの逆モデルを身につけたドライバを示す。
ドライバの頭の中にある運動
α
は、
運動
α
を生じるハンドル操作
δ
を、
練習で獲得したVehicle
Inverse Model から得て、
この操作δが車に与えることにより、
レーシングカーの運動 α として実現される。
普通は操作から運動が生じる、
逆に結果の運動が先にあってそのための操作を求めるモデルを逆モデルという。
ドライバの頭の中にある運動 α も
実は環境駆動の逆運動モデルα = a - C x'から得られる。
すなわち、車で実現される人の運動制御は、
常に結果が先に有るので全て逆モデルで構成される。
感覚から小脳の中に逆ダイナミックスモデルが作られることは国際電気通信基礎技術研究所
(ATR)脳情報研究所所長川人光男氏が実験で明らかにしている。 |
CarSim/MATLABを使ってProfessional Driver(AI ドライバ) 「弘法」の運転を実現する
ブロック図はMATLAB/Simulink、赤の車両はCarSim車両、赤点線枠がDriver Model(ドライバ モデル)、その中身が手前でαが運動逆モデル、逆モデルが車両逆モデル。
AI ドライバモデルによる運転例:レーンチェンジ (CarSim + MATLAB/Simulink)
CarSim (Mechanical Simulation社)
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